日本の食文化に深く根付いた香辛料「わさび」。
南北に長い日本列島では、育つ地域の自然環境によって、わさびの特徴に違いがあります。今回は、わさびの根茎(すりおろす本体部分)の出荷量が多い都道府県のうち、4位と5位を《前編》としてご紹介します。
はじめに ―日本国内のわさび出荷量―
令和4年度の日本国内におけるわさびの総生産量は1635tで、前年比でみると13.3%減でした。わさびの生育は天候や気温に左右され、年度毎の生産量の増減は、その影響が大きいと思われます。ここでは、「水わさび(注1)」と「畑わさび(注2)」の根茎の出荷量をもとに、国内のわさびの育成状況と地域ごとの特徴を見ていきたいと思います。
出典:農水省「2024年度 特用林産物生産統計調査」
🚩5位 島根県
第5位は島根県で、出荷量は3tです。島根県はかつて、「東の静岡、西の島根」と云われる
ほどの一大産地でした。
島根県では、積雪や寒暖による水温の変化により、わさびの収穫に2年ほどかかります。そのおかげで、他の地域とは異なる特徴の品種が育ち「島根わさび」と呼ばれています。とても粘りが強く、きりっとした辛味の中にもほのかな甘みが感じられ、爽やかな香りも魅力。有名なわさびの産地として、益田市匹見町と津和野町が挙げられます。
🚩4位 東京都
東京都の出荷量は10tで、4位にランクインしました。生産している「わさび」のほとんどが水わさびです。東京都で有名なわさびの生産地は、なんと云っても奥多摩です。奥多摩地区で栽培されるわさびは「奥多摩わさび」と呼ばれ、江戸東京野菜の一つに挙げられます。
奥多摩わさびは、「奥多摩式」と呼ばれる珍しい方式で栽培されています。「奥多摩式」は狭い場所でも栽培できる方式で、いかにも東京らしいと思いませんか?
<番外編> 北海道
北海道の「わさび」の出荷量は5.8tです。本来なら島根県を上回り5位にランクインするのですが、北海道で採れる「わさび」は、ほとんどが「山わさび」で、品種的に「本わさび」とは「属」も「種」も違う植物なので<番外編>として紹介します。
「山わさび」は別名を、西洋わさび(ホースラディッシュ)とも呼び、緑色の「本わさび」に比べて色が白く、欧米ではステーキやローストビーフの薬味として使われています。
北海道は、冬に雪が降り水温が下がるため「本わさび」の栽培には不向きと云われていますが、それに対し「山わさび」は北海道の気候に適し、寒さに強く生命力も旺盛のため、畑に植えれば手間をかけずとも成長し、国産「山わさび」のほぼ100%が北海道で収穫されます。
北海道産「山わさび」は、厳しい寒さに耐えながら育つことで独特の風味があり、「本わさび」より辛味が強く持続するのが特徴で、「本わさび」の代用品として安価な「チューブ入り擦り下ろしわさび」の原料に使われています。
北海道には、山わさびを使った「山わさびのり」「山わさびプレッツェル」「山わさびカップ
ラーメン」「山わさびポテトチップス」などの個性的な商品があります。
(注1)水わさび
清流に苗を植え、1~2年かけて育成する水耕栽培のわさび。主に根茎をすりおろして利用する。一般的にイメージする本わさび。
(注2)畑わさび
土の中に種や苗を植え、半年ほどで収穫する土耕栽培のわさび。主に茎を漬物や練りわさびの原料にする。