わさび栽培の発祥の地でもある静岡市で晩年を過ごした徳川家康。そんな家康が「わさびと縁が深い」ということをご存じでしょうか。実はそこには、徳川家の家紋である葵紋が深く関わっているのです。
ここではそんな家康や家紋、わさびの葉と茎に着目して、家康とわさびの関係に迫っていこうと思います。
家康とわさびの出会い
家康とわさびの関係を追っていく中で重要な資料として、「わさび栽培発祥の地」とされている静岡市有東木(うとうぎ)の石碑があります。石碑の碑文には以下のことが刻まれていました。
『慶長十二年七月(1607)駿府城に入城した大御所徳川家康公に山葵を献上したところその珍味の程に天下の逸品と嘉賞し、ついに有東木から門外不出の御法度品とした、また徳川家康の家紋が葵の紋であったことから、ことさら珍重したと言われている。』
大御所様として江戸城から駿府城に引っ越してきた頃の家康は66歳になったばかり。そこで献上品としてきたわさびに出会いました。わさびの「根茎」となる部分を食すと、その美味さに舌鼓を打ちます。こうして家康に認められた有東木のわさびは、この後家康の名により門外不出の御法度品として外に出すことを禁止されたのです。
門外不出の御法度品、葵紋に隠された秘密
わさびの「葉」というとその形をパッと思い浮かべられる人は少ないと思いますが、実は意外と可愛らしい形をしています。春になると白い花が咲き、よく見ると葉っぱがハートの形に見えます。このわさびの葉、実は葵の葉にそっくりなのです。
この2枚の写真、どちらが葵の葉でどちらがわさびの葉かわかりますか?
実は左がフタバアオイという葵の葉で、右がわさびの葉なのです。色も形もとても似ていて、実際に見てみても、素人ではなかなか見分けがつかないものです。
徳川家康が家紋にしている紋は「三つ葉葵」通称「徳川葵」と呼ばれており、この左の写真にある葵の葉をモチーフにして作られたものだと言われています。「三つ葉葵」は「二葉葵」の変形紋。実際に存在する植物ではなく、架空のものです。
葵紋と賀茂神社、家康のこだわり
葵紋がなぜこんなにも大事だったのかといいますと、もともとこの葵の文様は京都にある賀茂神社の神紋が由来になっているからなのです。京都の賀茂神社と三河国の武士たちは親密な関係があったと言われており、徳川家康もそのため葵紋を大事にしていたのかもしれません。
そんな葵紋は徳川家にとって、とても大事な紋章であったので徳川御三家以外は原則として葵紋を使用禁止にしていたといいます。
徳川家の家紋に入っている葵は、わさびの葉っぱにとてもよく似ています。更に、わさびを漢字で書くと「山葵」と書きますので文字の中に「葵」が入っており、そこにも家康の目がいったのでしょう。こうしてわさびは表記の面からも縁起が良いと珍重され、御法度品として門外不出にされる所以になるのです。
次回
そんな大切なわさびをとある人が持ち出した?一体わさびはどこへゆくのやら……
次の記事は「幕府禁制のわさびが、伊豆へ伝来した理由」です。